【後編】楽しく働く?いすゞデザインの今と、そのこころみに迫る
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【前編】楽しく働く?いすゞデザインの今と、そのこころみに迫る
感動創造WG ELFクッキー
「感動することとは!?」という問いかけからスタートしたワーキンググループ。歴代のELF(トラック)の顔が描かれたクッキーを製作し、パッケージまで全て手作りで完成させたとのこと。
ワクワクすることを考えるWG ELFペーパークラフトムービー
「トラックへの愛情を表現したい」という想いから産まれたELFムービー。発表会では、感動のストーリーに涙する方が続出しました。
ペダルカーWG
2009年から取り組んできたワーキンググループ活動の集大成として、ペダルカーWGが発足しました。1チーム約10名ずつ、A〜Eまでの5チームに分かれ1年半かけてペダルカーをデザイン、製作。
そのときのルールは「駆動方法は人力のみ」「車両は全長2,000mm×全幅900mm内に収まること」「安全性に配慮」の3つだけ。とにかく楽しんでカッコいいものつくってください、という丸山部長の号令とともに製作はスタートしました。
なんとこのペダルカー、シャシーから自分たちで造っていかなければいけません。各チームからの選抜メンバーで構成された「シャシ設計分科会」なるものが発足し、ラジコンマニアのメンバーがシャシー製作で活躍する一幕も。
各チームのスケッチから、完成したペダルカーのお写真も頂くことが出来ましたのでご紹介いたします。
Aチーム
スタイリングテーマは「Elegant」と「Madness」。この2つの相反する要素を、伸びやかなキャラクターラインと刃のようなシャープなディティールで表現。今にも獲物に食らいつく獰猛なサメを彷彿とさせるフォルムが特徴です。ボディは高貴なグリーン、内装は赤で闘争心を表現し、カラーにおいても二面性を表現しています。インテリアは、ドライバーをしっかりとサポートしつつもリッチで重厚感のある仕上げに。プロポーションは、車両単体ではフロントヘビー気味に見えますが、人が乗車したときにいかに美しくボディと調和して見えるかを追求しました。いすゞペダルカー・チャンピオンシップより
Bチーム
車両コンセプトは「MESSENGER」。メッセンジャーバイクをモチーフとした“荷物を運べる”ペダルカーです。前ヒンジで開くルーフが付いており、その上に荷物を載せることができるのが大きな特徴です。エクステリアは凸凹のないワンモーションフォルム。ルーフが付くことで、全体的にプロポーションが高くなってしまう恐れがありましたが、ドライバーのヘッドクリアランスは限界まで詰め、なるべく低くコンパクトに、そしてもちろん速そうに見えるよう工夫をしました。ボディカラーは赤と白というまるでいすゞ自動車のコーポレートカラーのような組み合わせ。色味やグラデーションのグラフィック表現に工夫を加え、速さを競うレースというシチュエーションにもマッチするよう調整を行いました。赤と白の塗りわけは、細いマスキングテープを無数に積み重ねてつくり上げています。いすゞペダルカー・チャンピオンシップより
Cチーム
テーマは「DEVIL FISH」。モチーフをマンタレイとし、アッパーカウルでその流麗なフォルムを表現。マシンに人が乗ることにより完成する「人機一体」がコンセプトです。外装と内装が表裏一体で連続感を醸し出すシームレスな構造。ドライバーを包み込む有機的でスポーティーな雰囲気を表現したこのキースケッチは、「人が乗っていても、乗っていなくてもカッコイイ」という目標に最も沿っていました。スケッチの流麗さを追求するために極限まで車高を低く抑え、12インチの小径フロントホイールと、26インチの大径リアホイールという組み合わせによって大胆なスタンスを表現しています。ボディカラーはハイコントラストなコンビネーションにすることでアグレッシブさを演出し、流麗なボディを際立たせるためにクリアの平滑性にもこだわりました。いすゞペダルカー・チャンピオンシップより
Dチーム
「凶暴モンスター×強靭アーマー」を、形と色のメリハリによって表現しています。生命感を感じさせるマットオレンジはモンスターパートとなっており、筋肉の緊張感やおおらかさをメリハリのある面質やキャラクターを用いて表現。対して無機質なガンメタリックを用いたアーマーパートでは、内側にモンスターの体を感じさせつつもエッジの効いたカタチで、重く硬質な印象を持たせました。全体のスタイルはワイドアンドローを意識したものになっていて、低く構えたその顔によって、虎視眈々と対戦相手を威嚇するような印象を持たせました。サイドではアーマーパートの「ツノ」に全体よりも鋭さを持たせることで動き出しそうな雰囲気を演出しています。足元にはモンスターの爪をイメージしたホイールを持たせ、全体の雰囲気をまとめています。いすゞペダルカー・チャンピオンシップより
Eチーム
いすゞがかつて製造した、国内に現存する実走可能な国産最古のバス「スミダM型」をモチーフに、ペダルカーのデザインに落とし込みました。完成したペダルカーには「スミダ」というそのままの名では面白さを感じられないと思い、考えついた名前はスミダの子であるかのような愛くるしいカタチから「コスミダ」。(中略) 今回のテーマは「昔ながら」と「遊び心」。「昔ながら」とは、どこか温かく、懐かしい感じのする落ち着いた形であると思ってます。また、「遊び心」については、実車にもある「STOP」文字のブレーキランプを再現し、ステアリングはスミダの型式であるM型の「M」をイメージし製作したことで、機能優先のデザインでは得られないカタチを表現しました。いすゞペダルカー・チャンピオンシップより
Xチーム
A〜Eチームのあまりにも楽しそうな様子をみていた丸山部長率いるベテラン勢が、我慢しきれなくなり、急遽製作することになった一台。メンバーの一員である木型職人が造ったそのハイクオリティなウッドのステアリングに職人魂に火がつき、他のチームのスタートから一年遅れにも関わらず、高い完成度を誇るホットロッドは無事出来上がったとのこと。
ペダルカーWGでは、年齢・職域を越え、普段は関わることの出来ない工程まで担当します。一番はじめの企画からデザイン、製作、そして最後にはレースや展示会まで全て取り仕切ったそう。下はいすゞペダルカー・チャンピオンシップ2014の様子。総合優勝は、国産初の乗り合いバス「スミダM型」を忠実に再現した「試作部チーム」が獲得。
そのこころみの狙いとは
そもそもどのような背景から、このような取り組みをすることになったのでしょうか。
いすゞデザイン部は1957年に設立されて以来、先輩から新人へと、いすゞならではの技術と文化がたしかに継承されてきました。ですが、時代の変化とともに、ベテラン層とフレッシュな若手層の2極化が進みます。
進む中堅層の空白化(いすゞデザインこころみ展より)
さらに、職種ごとの専業化や、業務分担は複雑化する一方。これはいすゞだけでなく、多くの自動車メーカーにあてはまる問題です。そうすると、どのようなことが引き起こされるでしょうか。隣の席の人の業務はまるで別世界。責任範囲が自然と狭くなり問題が共有されない。ベテランが培ったスキルや経験が若手に伝承されない。専業化や業務分担の複雑化によってもたらされるメリットはもちろん有りますが、そのデメリットも無視することができない状況になっていったのです。
多様な職種と進む専業化(いすゞデザインこころみ展より)
「なにより、メンバー達のポテンシャルが100%発揮できていないという、その状況に課題を感じていました。最近の若手は…なんていう言葉をよく聞きますが、いすゞではまったく逆。優秀な若手が多いと感じていたのですが、生かしきれていない。その現状を打破するために、ワーキンググループという取り組みを行うことにしたのです(丸山デザインセンター部長)」
外部に向けた展示会を開催することは、ワーキンググループ構想時から、織り込まれていたとのこと。丸山部長の語り口からは、“社外での活躍の場を設けることでデザイナー達のポテンシャルと主体性を引き出し、自信を付けさせる”という意図があったように感じられます。
課題を整理し、それに対する打ち手とゴールが入念に検討された(いすゞデザインこころみ展より)
ですが、このワーキンググループ活動はあくまで課外活動。「通常業務に支障をきたさない限り、就業時間内にやってよい」というルールですが、裏を返せば業務量は純増するということです。実際のところはどうだったのでしょう?
ワーキンググループによって変わった、仕事への姿勢
「はじめのうちは、ワーキンググループの意図や効果について懐疑的でした。私を含め、受け身のメンバーが多いように感じることも多かった。通常の業務が立てこんでくると尚更です。」
入社10年目の長谷川芳美さんはこう続けます。
「テーマが全て上から与えられるわけではなく、何をやるか、というところから自分たちで考える必要のあるWGもあります。ですので、やりたいことを思いついてしまったら、あとは自分たちで時間を作りだすしかないんです。そんな状況で、WGと同時に取り組んだのが通常業務の見直しです。WGがはじまった2009年以前と比べて、業務効率は格段にアップしました。今は、受け身ではなく、主体的に取り組もうというメンバーがほとんどです。」
企業が何か新たな取り組みを始める場合、スタッフ全員がはじめから主体的に取り組むことは非常に難しいこと。そんな中、いすゞのメンバー達はワーキンググループの効果に気付き始めます。
「ペダルカーWGでリーダーをさせてもらったのですが、10名以上の方々をまとめるのは大変でした。」そう語るのは入社8年目の渡辺元生さん。
「どうコミュニケーションすれば皆が気持ちよく動いてくれるのか、そこが一番の悩みどころでした。通常の業務のときのリーダーもこんな気持ちなのかと、その時にはじめて先輩達の苦労がわかるようになりました。」
通常、29歳でプロジェクトリーダーをするということは滅多にないことです。ただ、ペダルカーの製作といっても、そのプロセスはクルマを造る工程とほぼ同じ。そこで得た経験は通常の業務に還元され、メンバー達は自分たちの身を持ってワーキンググループの効果を体感することになります。
「昔は人数も今より少ないですし、一から十まで自分でやるしかなかった。全て担当したことがある大先輩方は、経験値も知識量も違います。我々若手は樹脂を抜いたことも無かったですし、まず塗装の講習から受けたり笑 ペダルカーWGを通して、はじめから最後まで携わる経験が出来たことは何よりありがたかったですね。」
いすゞのこころみがもたらした効果
これまで紹介した他にも、いすゞの働くクルマ達をテーマにしたコマ送りムービーを製作した『わくわくすることを考えるWG』、歴代エルフのグラフィッククッキーを作った『感動創造WG』など、業務にはダイレクトに関係しないことにも積極的に取り組んできたいすゞデザイン。それらの取り組みがもたらした5つの効果を下にまとめてみました。
1. 部内のコミュニケーションが活発化
年齢の違い、職種の違い、役職の違いを超えた仲間意識が醸成された
2. 個々の技術レベルの向上
それぞれの専門技術に対する理解度、スキルが向上した
3. いすゞデザイン内での言語、常識の共有化
いすゞデザインのスタンダードや、やりたいことを理解するようになった
4. 個人プレーではなく、チームで活動できるようになった
仲間意識を大切にして、役割を自ら考え、主体的に実行する人が増えた
5. 他の人の仕事への理解度向上
無責任な発言が少なくなり、相手を尊重しながら仕事に向き合うようになった
いすゞデザインが目指すこれから
最後に、丸山デザインセンター部長に、いすゞデザインの今後と、求める人物像をお聞きしてみました。
「ご存知の通りいすゞ自動車は商業車メーカーです。勿論海外ではSUVやピックアップも造っていますのでトラックとバスのみを対象にしているわけではありませんが、いすゞの商品は乗用車メーカーと比べモデルライフが長いという特徴があります。
モデルライフが長いということは、長く乗っても飽きの来ないデザインをする必要があるということです。しかし、ベーシックなだけでは動態デザインとして面白くないので、エモーショナルな部分も併せ持つ必要があります。つまり、飽きのこないシンプルな造形と、エキサイティングでエモーショナルな造形という相反する要素を上手くまとめて、いすゞらしさを作り上げていくことが我々に課せられた使命だと思っています。また、トラックの持つ力強さや頑丈な形の要素も、いすゞの形づくりには必要であると考えています。
フィロソフィーとして、「シンプル」「ソリッド」「エモーショナル」の融合を上げているのですが、これら3つの要素をバランスよく組み立てられる技術をチームとして共有し、アウトプットしていけるようになることが我々の活動の目的です。
車は一人では作れません。様々な職種の人たちが、目的とゴールを共有し、お互いに切磋琢磨することで、より高い次元のデザインに到達できると考えます。そのためには個々の技術の向上は言うまでもありませんが、チーム全体としての高いコミュニケーション力やお互いの長所を知ること、みんなで楽しんで仕事に向きあえることが重要だと考えています。
まず、それぞれがプロ意識と技術、自信を持つこと。その上で自分のこととして仕事をとらえ、積極的に形づくりに参加すること。それが実現して初めて、お客様の心をとらえて離さない、かつ、自分達も満足できる形を生み出すことができるようになるのではないでしょうか。
あと、求める人物像に関してですか。何もないところから形を生み出すことって、楽しいんですが結構大変なんです。そういった意味でやっぱり明るくて元気のいい人というのが基本です。その上で、自分の意見をしっかり持っていて、みんなとうまくやっていける人、チームで活動することを意識できることも欠かせません。ラクビ—じゃないですけど ” One for all. All for one ” ですね。
スキルは、あるに越したことはありませんが、実際の仕事ではかなり高いレベルを求められるので、仕事を通して吸収していく意欲のほうが大事かも知れません。」
お知らせ
2015年8月2日(日)、中目黒ラウンジにてアルティメットカーデザインバトル2015を開催します。審査員は、現役カーデザイナーを始め、カースタイリング誌編集長松永氏らが務める。優勝賞金10万円をはじめ、豪華副賞を手にするのは一体誰なのか。当日は、お酒や料理と共に、音楽に揺られながらどっぷりとカーデザインの世界に浸れます。大会終了後、様々なアーティストとコラボし、アート空間を演出しているcafe・中目黒ラウンジでは、カーデザインウィークを開催し、優秀作品や様々なスケッチを展示予定。カーデザイナーを志す方、観戦希望の方、プロのデザイナーの方は奮ってご参加ください。詳しくはイベントページを御覧ください。