【インタビュー】現役のカーデザイナーに会ってきた!ーメルセデス・ベンツ、フォルガ−さんの場合ー
今回は、メルセデス・ベンツでデザインディレクターを務めるHolger Hutzenlaub(フォルガ−・フッチェンラウフ)氏が来日されるということで、貴重な時間をいただき、生い立ちから学生時代、そして就職にいたるまでをお伺いしてきました。
【インタビュー】現役のカーデザイナーに会ってきた!ーメルセデス・ベンツ、フォルガ−さんの場合ー
Holger Hutzenlaub(フォルガ−・フッチェンラウフ) 1967年生まれ。ウルム大学を卒業した後、カーデザインを学ぶためフォルツハイム大学へ進学。その後、2回のインターンを通してメルセデスベンツに入社。1996年からE-およびSクラスと責任あるCLクラス、など、様々な生産車のエクステリアとインテリアデザイナー、プロジェクトマネージャーとして従事。2003年にS-/CL-/SL-/SLK-/SLR-Klasseやマイバッハの部門の設計プロジェクトマネジメントの管理を引き継いだ。現在、アドバンスドデザイン部門のデザインディレクターを務める。
わたしの祖父は、F1レースのパイオニアで、メルセデスでテスト部門のエンジニア兼テストドライバーとして働いていました。
そして父もメルセデスで働いており、わたしも合わせると、親子三代続けてメルセデスです。
本当に稀なことだと思いますが、そんな訳で、幼い頃からクルマは常に生活の中心にありました。
本当に稀なことだと思いますが、そのような訳で、幼い頃からクルマは常に生活の中心にありました。
そして、とても幼いころからクルマの絵を描いていました。授業中でもお構いなしだったため、先生によく注意されていました。
14才の頃はゴーカートに夢中でした。
ゴーカートはむき出しで、デザインは全くされていなかったので、プラスチックパネルのようなものを自分で加工し、デザインをして遊んでいました。
これが、わたしがクルマをデザインした最初の時でした。
その頃から、将来はカーデザイナー、もしくはエンジニアになりたいと意識するようになりました。
ある日、父がC111のミニカーを幼いわたしにプレゼントしてくれました。
当時のメルセデスは、「世界一退屈なカーデザイナーはメルセデスにいる」と言われるくらい伝統を守り続けたスタイルだったため、スポーツカーのようなアグレッシブなデザインの車はありませんでしたが、その中でC111は特別で、本当に衝撃的でした。
わたしは、毎日それを眺めながらスケッチをし、いつか自分が新しいメルセデスをデザインしたい、と考えるようになっていました。
クルマ雑誌を横に置き、スケッチの練習をしましたが、大学に入るまではカーデザインを教えてくれる人は誰一人もいませんでした。
父も祖父もカーデザインを教えてくれる事はなく、よく洗車の手伝いをさせられました。
これは本当に大事なことなので、今からカーデザイナーを目指す人は良く聞いて下さい。
洗車は、最高の勉強法です。
自分の指で実際に触れ、クルマの形を体に染み込ませます。
写真を見ているだけではいけません。
間近で色々な角度から見て、触れて、記憶して、形状を覚えるには触れることが一番です。
男性が女性に触れたくなるように、クルマ好きならカッコいいクルマがあったら触れたくなるはずです。
エンジニアリングとカーデザインを学ぶため大学へ進学
高校卒業後、エンジニアリングを学ぶためにウルム大学に進学しました。
その頃も、カーデザイナーを目指すのか、エンジニアを目指すのか迷っていたため、ウルム大学卒業後、カーデザインを学ぶためフォルツハイム大学に再び入学しました。
フォルツハイム大学はデザインの分野で非常に人気があり、ドイツだけではなく世界中からカーデザイナーを目指す人が集まるため、誰でも受験できるわけではありません。
まず自分のポートフォリオを送らなければならず、そこで初めて受験資格を得られるのです。
最初の二年間は総合的なことを学びます。
デザインの歴史や文化についても幅広く学びましたし、裸婦のスケッチもしました。
そして最後の2年間で、専門的にカーデザインを学ぶのです。
しかしながら大学でも、プロのカーデザイナーから教えてもらう機会は多くありませんでした。
テキストも無いので、同じクラスメイトや、先輩のスケッチや描いているところをこっそり見て、吸収していきます。
実際にプロのカーデザイナーからしっかり教えてもらったのは、大学時代に経験したメルセデスのインターンシップでした。
もちろん誰でも参加できるわけではありません。
自分自信の実力を見てもらうため、ポートフォリオを多くのメーカーに送りますが、メーカーからこの日までに送ってくれ、というような指示は全くありません。
自主的に、自分のタイミングで自信のあるポートフォリオを送るのです。
そこは日本の採用のスタイルとは全く違います。
わたしと同じように、世界中からカーデザイナーになりたい人がポートフォリオを送ってきます。
その中でデザインの素養が認められたわずか数人が、インターンに参加することができるのです。
わたしの時の場合は、インターンに参加したのは8名で、別の部屋でメルセデスのプロのカーデザイナーから直々にレッスンを受けました。
わたしの頃は、このような体制でしたが、今はインターン生を実際のプロジェクトに参加させ、実際の仕事を通して実力を測り、採用していきます。
わたしは在学中にこの半年間のインターンを2回経験しました。
そして無事メルセデスに入ることができたのです。
ウルム大学(独語: Universität Ulm)は、ドイツバーデン=ヴュルテンベルク州ウルム市にある大学。1967年創立。設立されている学部は自然科学、工学、医学、数学、経済学のみであり、人文科学は設置されていない。学生数は7000人を超える程度で、ドイツでも小さい大学の一つだが、理系の評判は高く、自然科学では国内ランキングの最上位に位置する(Spiegelのランキングで数学で国内2位など)。研究と産業の融合を目指しており、ダイムラー、ノキア、シーメンスなどの研究所がキャンパスにある。
フォルツハイム大学(Hochschule Pforzheim)はドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州の都市プフォルツハイムに設置されている総合大学である。世界レベルでカーデザイナーを志す卵たちが集まるフォルツハイム大学の2007年の製作展風景はこちらから。
カーデザイナーになるために必要なこと、そしてその魅力
-カーデザイナーになられてみて、この仕事の魅力をお教え下さい。
第一に、カーデザインという仕事は、色々な要素があり、とても複雑です。
だからこそ、とてもおもしろいと言えます。
わたしはこの仕事に誇りを持っていますし、エキサイティングな仕事だと感じています。
-優れたカーデザイナーになるために必要なことをお聞かせください。
回り道をすることです。
わたしは8年をかけて、2つの大学を卒業しました。
一見するとカーデザインと関係のないことを学んでいるように見えますが、全て何らかの形で関係しています。
フォルツハイム大学のはじめの2年間はクルマに関することを学ぶことはありませんでしたが、多くのことに好奇心を持ち学んだおかげで、今のわたしのデザインの幅が広がったと感じています。
優れたカーデザイナーというものは、画力やテクニックだけではありません。
確かに、カーデザインのテクニックは素晴らしく、デジタルの表現もとても上手です。
しかし、カッコよくて新しいデザインを生み出すことは苦手、という人も中にはいます。
テクニックばかりを磨き、最短距離で進もうとする人が特に陥りやすい過ちです。
デザインに最短距離はありません。
自分のイメージを具体化する表現力はとても大事ですが、イメージを膨らませる元々の引出しが無いと本末転倒なのです。
図を書いて説明するフォルガー氏。回り道をしながら、様々な経験を積むことでクリエイティブが養われる。
-カーデザインアカデミーのシステムや、テキスト・動画教材をご覧になられた感想をお願いいたします。
メルセデスでインターンをするまで、カーデザインのテクニックをプロから教えてもらったことがなかったので、わたしの場合は全て自己流でした。
カーデザイナーになるには、自分のイメージを具体的に表現する力が必要です。
線の質、パースの崩れや面の表現など、プロからアドバイスを受けることで、上達のスピードは格段に上がります。
そもそも、プロの現場でも、添削までしてくれることは考えられません。
わたしが学生の頃にこのシステムがあったら、受講していたでしょう。
-カーデザイナーを目指す方へメッセージやアドバイスをお願いいたします。
カーデザイナーとして大事なことはCuriosity、つまり好奇心です。
多くのことに好奇心を持ち、自分の目で見て、自分の肌で触れてみて、様々な経験をする、これは根本的なことで、本当に大切な事です。
常に好奇心を持ち続けることなしに、新しい価値を生み出すデザインは生まれない、とわたしは考えています。
カーデザイナーという仕事は本当に面白い仕事です。
たくさん練習をして、自分の夢を叶えて下さい。
フォルガー氏のサイン。