【後編】現役のカーデザイナーに会ってきた!ーサンティッロ・フランチェスコさんの場合ー
前回の続き、サンティッロ・フランチェスコさんインタビューの後編になります。
前編はこちらよりお読みいただけます。
【前編】現役のカーデザイナーに会ってきた!ーサンティッロ・フランチェスコさんの場合ー
現役のカーデザイナーに会ってきた!サンティッロ・フランチェスコさんの場合
サンティッロ・フランチェスコ=1967年イタリアローマ生まれ。1989年にIAAD(工業デザインの専門学校)を卒業し、同年、イタルデザインの関連会社であるフォームデザイン入社。その後、1991年にイタルデザイン入社。1994年にピアッジョ、1995年にイタルデザイン、1998年にメルセデス・ベンツと渡り歩き、1999年、トヨタ自動車に入社すると共に来日。2004年に本田技術研究所へ転職した後、2007年、株式会社ネプチューンデザインを設立。現在、クルマ・バイク・自転車をはじめ、様々なプロダクトのデザインとコンサルティング業務を出掛けている。
イタルデザインへ再入社後すぐに、プロトタイプFiat Formula 4を担当。
今でも、カーデザイナーなら誰もが知っているクルマではないでしょうか。
イタルデザイン時代のフランチェスコさんと、手掛けたFiat Formula4
同じ会社でも、メーカーで異なる経験をした後に戻ってくると、それまで見えなかったことが見えてきました。
1998年7月、コモ湖畔にあるメルセデス・デザインスタジオに移り、パワーボートのデザインも個人的にこなしながら、しばらくすると、メルセデスドイツ本社へ異動の内示が出ました。
正直、食事や気候面に不安がありましたし、メーカー勤務の経験もまだ満足いくものではなかったので、慌てて寒くない土地のメーカーで次の転職先を見つけようとしました。
そのような折、トヨタがニースに新拠点を出すことを知りました。
すぐに連絡を取り、当時の責任者に会い面談をしてもらい、内々で採用が決まりました。
ところが偶然にもトヨタの本社でも全世界に募集がかけられているので、ニースの担当者がトヨタ本社へも応募書類を送付しました。
書類が通り、最終選考の6人に残り、気楽な気持ちが功を成したのか、通ってしまったのです。
本社の試験が優先されるので、ニースではなくトヨタ本社で採用されることになりました。
世界中から100名くらいの応募があり、合格したのはわたし一人、ということを知ったのは、入社して1年が経ったころでした。
そういう経緯があり、わたしは日本へ行くことになったのです。
勤務地は、豊田市でした。
トヨタの良いところは、人とのコミュニケーションを大事にするところです。
本社に在籍し、窓はひとつで、トイレもバスルームも共同だった独身寮に住んでいたおかげで、様々な部署の人たちと交流ができました。
トヨタには300人を超えるデザイナーがいますから、他部署の人と知り合うことは容易ではありませんでした。
実はわたしは、それまでPCを使ってデザインをしたことがありませんでした。
初めての社内コンペで、手描きのデザインを提出したところ、みんな「新鮮でよかったよ」と褒めてくれましたが、(これはマズい)とPhotoShopの勉強を始めました。
ソフトは日本語、先生も日本人、そしてイタリア語しか話せないわたしです。
日本での生活がトヨタでスタートしたことは、実にわたしにとって良かったです。
今は独立しましたが、ツナグデザインの根津さんともトヨタで知り合いました。
その頃わたしは常に、会社員としてやっていくか、独立するかを真剣に考えていました。
そして時代は2Dから3Dへ移行していき、3Dソフトを駆使できるようになりたいと思い、インストールしてもらいました。
インハウスデザイナーは、部内でかなり分業されてしまっているので、3Dデータ作成まですることはありません。
設計者同士なら設計図で、デザイナー同士ならスケッチで話ができます。
しかし独立した場合、デザイナーではない人にデザインを見せ、説明しなければならないので、3Dは必須スキルです。
これからお話しするのは、日本のメーカー内にいてわたしが感じたことです。
ひとつは、先に完璧な図面を引かなければ前に進めない、ということです。
これくらいの容量でこれくらいの予算で、と全て提示された内容で仕上げようとします。
しっかりとしたアイデンティティがあれば過程の中での変更も可能なのに、とわたしは思うのです。
これはデザイナーが信頼されていない証だと感じます。
機能性能の良いところが日本車のアイデンティティです。
裏を返せば、製品がすべて、ということです。
日本のクルマは高品質なのに低価格です。
高品質なのだから、デザインという付加価値をつけて高く売らなければ、いつまでたってもブランドは確立しません。
デザインも機能の1つだと気づいて欲しいのです。
デザイン力が弱ければ、製品のイメージ力も弱くなってしまいます。
もうひとつは、分業されすぎていることです。
日本人は、なんでもコンパクトにしてしまう良い所を持っているのに、コンパクトなものを作るのに、大きな組織を要します。
イタリアでは、デザイナーがアイデアからデザイン、モデル製作、製品化まで関わります。
デザインをポンと渡してしまって変更されてしまうと、自分でデザインしたものと違ってきてしまうのですが、デザイナーはその結果に責任が持てません。
これでは、技術のことがわかるデザイナー、デザインのことがわかる技術者がいなくなってしまいます。
イタルデザインが、単なるデザイナー集団ではなく、モデル製作もセットで行う会社をコンセプトにしていたのは、ここにあると思っています。
ロゴがなくてもどこのクルマかわかるクルマを作っている会社は、デザインのアイデンティティ確立に心血を注いでいます。
似通った性能のクルマを他社と差別化するには、デザインしかないからです。
また、手描きスケッチの機会が少なすぎるのも問題だと思います。
トヨタでもホンダでもドラフトテーブルを使っていたのは、わたし一人です。
ペンタブレットでPCに描いても、ペンで紙に描いても同じ、と思うかも知れないですが、描き直す際に違いがでます。
ペンタブレットでは間違えたり、気に入らなければその部分だけ消去、変更することができたりしますが、しかし手描きは、また一から描き直さなければならなりません。
絵がうまくなりたかったら、手描きスケッチをたくさんこなすことです。
その後に、PC操作の勉強をしてください。
また、レンダリングに時間をかけないことです。
レンダリングに時間をかけるということは、字(レンダリング)はうまくなるけれど文章(デザイン)はうまくならないようなものなのです。
フランチェスコさんの手描きのスケッチ。事務所には、数多くのスケッチが飾られていた。
トヨタからの転職。そして独立。
イタリアの場合、良いデザイナーはどんどん外に出て、その会社のいいところを吸収しながらキャリアを積んでいきます。
逆にキャリアのある人が流動することで、会社も成長していきます。
しかしデザイナーはある時点で、積んだキャリアをどう活かすか決めなければならない時が必ず来ます。
わたしはトヨタ契約終了後、日本とフランスのメーカー2社の試験に合格しました。
いずれどこで独立するか、どこで生活するかを決めなければなりません。
「独立するなら日本で」と強く思ったわたしを受け入れてくれたのは、自由な社風で知られるホンダでした。
また、ホンダには大好きなバイクがあります。
ホンダのクルマは、低床・低重心ミニバンで、容量は大きくてもコンパクトが特徴で、低床・低重心はスポーティ感を与えます。
わたしはホンダに入社することを決意しました。
勤め先を変えることが多かったですが、飽きっぽいわけでも、いい加減なわけでも決してありません。
一人気張らず、時の流れに身を任せて進んでいるその道が、自分の本当の進むべき道ということもあるのだと強く感じています。
デザイン会社、メーカーのどちらも経験しました。
イタリアだけでなく、日本でも企業勤めができました。
コンセプトを明確に打ち出すことのできるデザイン会社、企画から参加できるメーカー、どちらにもそれぞれの良さがあります。
そして、どうやらわたしは最終的に「もっとコンシューマーに近づきたい!」と、そう思ってしまったのです。
もしかすると、多くの製品を作っている日本に来たことで、カーデザイナーの経験を活かしたデザインの世界が他にあるのではないか?とひらめいてしまったのかもしれません。
独立するには、人との出会いが重要だと感じます。
わたしを起用し、第一線で活躍させてくれたトヨタやホンダの方々、そしてなによりジウジアーロに恥をかかせられないですから。
事務所の立ち上げとオープンパーティーの様子。設置はすべてフランチェスコさん自身で行ったそう。
独立して手がけた仕事の数々。見せられないものが多い中、厳選して見せていただくことが出来た。
医療機器メーカーから直接オファーを頂き、手掛けたプロダクト。フランチェスコさんのデザインは、自然や建造物など、日々の中で様々なものからインスパイアされるという。
次に発売されるヤマハ・TMAXをイメージしてくれと雑誌社に頼まれて描いたスケッチ。雑誌発売後、どこから情報を入手したのか、とスパイ容疑でヤマハから雑誌社に電話があったという裏話も笑
2014年イタリアでデビューする電動モペット
2013年1月のダカールラリーで走ったバギーのデザイン。エンジンとフロントガラス以外、全て作成。カーメーカー協賛の参加が多い中、個人で参加する人は減っているそう。ちなみに次回のダカールラリーにも参戦が決定しており、コチラからフランチェスコさんデザインのバギーを見ることができる。
カーデザイナーを目指す人に向けてのメッセージ
デジタルはあくまでツール。ソリューションではありません。
自分の目で、肌で、五感をフルに使ってリアルに感じて下さい。
そのような経験が、デザイン力に大きく影響してきます。
アナログなことは、なんでも時間がかかるかもしれませんが、人の感情は決してデジタルではありません。
独立すると、顧客の希望を聞きながら、ササっとスケッチで具体例を示すことができるかが大事になってきます。
スケッチは体で覚えるもの。一朝一夕にはうまくなれません。
アナログなテクニックを軽んじないことです。
それを常に頭に入れておいて欲しいです。
またデザインは、売れることに特化した、作り手の都合を優先したデザインをしてはいけません。
伝えたいものを形や機能に、情熱と誠意をこめてデザインするのです。
「売りたい!」と思うあまりにマーケティングに頼ると、コンシューマーに媚びたものになってしまいます。その時は喜ばれてもすぐに飽きられてしまうのです。
今ある息の長い商品は、新規開発のときから社内からの抵抗が大きく、決してすんなり製品化されてはいなかったのではないだろうか、と思います。
わたしもそうですが、そういう製品を消費者に提供できるデザイナーが多く育って欲しいと思います。
デザイナーは地味で目立たない仕事だけれど、デザインした製品は、ずっと残ります。
主役は製品です。デザイナーは縁の下の力持ち。
製品が徳川吉宗、暴れん坊将軍なら、デザイナーはじい、です。
わたしは一生デザイナーとして生きていきたいのです。ですから独立しました。
デザインは、わたしの人生そのものなのです。
フランチェスコさんが代表を務める株式会社ネプチューンデザイン。実際に使用するユーザーの立場に立ち、製品価値を作り出すそのデザインは、クライアントから絶大な支持を得ている。知的財産権を活用し、クライアントの権利を守るノウハウを提案できるデザイン会社としても注目を集める。
告知
自動車専門誌Tipo(ティーポ)と共同でCAR SKETCH COMPETITION 2014 Tipo杯を
開催致します。
詳細はコチラ
CAR SKETCH COMPETITION 2014 Tipo杯を開催致します!
このコンペのテーマは
「今、本当に乗りたいクルマ」
審査は賞毎に行われ、カーデザインを専門的に学んだことの無い方にも受賞のチャンスがある
珍しいカーデザインコンペとなっております。
発表は来年3月6日発売の自動車専門誌Tipo(ティーポ)で行われます。
どんなデザインがでてくるか今から楽しみです。
参加資格なども、特に設けませんので、カーデザイナーを目指す方、
カーデザインに興味がある方であれば、学生以外の方でもどなたでもご参加出来ます。
皆さんふるってご参加下さい。
結果発表についてはこちら
※2014年3月6日更新