2016年は暗雲!?過去7年連続で販売台数世界1位を記録する中国に何が起こったのか。
皆さんは、世界で最もクルマの販売台数の多い国が中国だと知っていますか?
中国は、過去7年連続、世界ナンバーワンの地位を保っています。2015年は、2460万台を売り上げ、ナンバーツーのアメリカの1750万台を大きく引き離しています。しかしながら、販売の増加のペースは4.7%と、この3年の中では、一番低かったのです。実際、下のグラフを見ても分かるように、2015年の夏は、前年比、落ちこんだのです。
これは、中国経済全体の成長が低かったこと、そして、上海市場をはじめとする株式市場の暴落といっていいほどの落ち込みが反映されたからです。上海総合指数は、6月には、5000ポイントの高値をつけたものが、8月下旬には、3000ポイントまで下がってしまったのです。中国政府が、昨年10月に、1600CC以下のクルマにかかる消費税を10%から5%と半分に下げるという緊急対応した結果、2015年の最終四半期(10月-12月)は、対前年比2ケタ増と回復したのです。この5%のカットは、消費者にとって、約10万円の節税になるものでした。
中国自動車協会は、2016年の販売予想を2600万台、対2015年比5.9%の増加と発表しました。しかし、アナリストの多くは、この予想成長率を懐疑的に見ています。その理由は、(1)中国経済全体は、継続的に弱含みそうであること。(2)株式市場と人民元の為替市場が脆くなってきていること。(3)10月に導入した1600CC以下の消費税の半減は、将来の需要を先取りすることになるので、今後の成長が逆に見込めなくなること、などが挙げられています。
http://www.wsj.com/articles/chinas-automobile-sales-slow-in-2014-1421046195
上記のグラフは、過去10年の対前年比の成長率ですが、それを見てみると、直近5年のパフォーマンスは、その前の5年より、だいぶ、落ち込んでいるのが分かります。それでは、今年2016年は、いったいどんな年になるのでしょうか?
その予測をする前に、面白い統計があります。中国で昨年販売された車種で、最も多かったのは、セダン・コンパクトカーでした。全部で1170万台、50%のマーケットシェアでした。その次がSUVで、620万台、マーケットシェアは25%でした。残りはVANと、商用車です。ここで、それぞれの車種の対前年比を見てみると、劇的な変化が起こっているのがわかるのです。セダン・コンパクトカーが、前年比5%の落ち込みに対して、SUVは52%の増加を示したのです。まさに、この状況は、前回の記事で紹介したアメリカ市場で起こったことと同じことが起こっていたのです。
▶ [2015史上最高を記録] アメリカ自動車販売が絶好調!今年も売れ続ける3つの理由とは。
ところで、今年から、中国市場では、多くのメーカーとディーラーの販売方法が変更されます。すなわち、ディーラーは、今年から、どんなクルマを何台欲しいかという風に、オーダー方法を変えるのです。昨年までは、メーカーが送ってくるものを受け入れなければならなかったのですが、この変更は、大きな違いを生むことになりそうです。この方法に変わると、ディーラーは、SUVを中心にオーダーを入れてくると予想できます。それも、1600CC以下の売れ筋のコンパクトSUVです。この結果として、SUVの販売が、今年より更に伸長し、セダンの販売が、更に落ち込む可能性が高くなります。メーカーとしては、この販売に対応できないと市場での競争力が落ちます。例えば、ホンダは、コンパクトSUVのVEZELを2014年後半から導入していたため、ホンダの中国での販売は100万台を超え、前年比33%という驚異的なレコードを出すことに成功しました。トヨタも又、レコードイヤーとなったのです。
http://car.autohome.com.cn/photo/series/20373/1/2712491.html
日本の自動車会社は、2015年は中国で、概ね好成績で終えることができました。全体でみると、2014年比9%の増加でした。中国の地場のメーカーは更に好成績で、15%の増加を記録しました。ドイツ車は、最も売れている外国車ですが、成長率は2%、アメリカ車は3%の増加に留まりました。一方で、波に乗り損ねたのが、韓国車で、前年比マイナス5%という結果でした。
“中国のマクロエコノミーの進展は、どのように影響するのでしょうか?”
今年、最初の2週間で、上海の株式市場は、大きく下落しています。1月13日現在、昨年8月の安値の3000ポイントを下回ってきています。下落率は、17%と、アメリカのダウ平均の下げの8%や、日経225の下げの10%をはるかに上回っています。
上海総合指数の2015年の動き
ブルームバーグより
仮に、株式市場がこのように継続的な下げを演じたり、低いレベルで留まったりした場合、経済全般も間違いなく不景気になります。逆資産効果というものです。余裕資金が減るわけですから、そのような場合、中国での自動車販売も相当悪化すると考えられます。少なくとも、暗いシナリオが浮かび上がる可能性が高くなります。1月と2月は、季節的に、新車販売が振るわない月です。もし、そうならば、中国の新車販売のショッキングなニュースの見出しを見ることになるかもしれません。
これは、一方で、違った意味で、世界経済に影をさすことになります。世界一の自動車販売の国でクルマの販売が振るわないとすると、鉄鋼や化学、消費財全般にも、影をさすことになります。もちろん、中国経済が今年以上に、振るわないとすると、世界経済のブレーキにもなり、株式市場全体も、過去数年の上昇トレンドから反転することさえ、予想されます。いわゆる、らせん階段を下降することが起こるのです。
そうなると、次に出てくる質問は、こういうような状況下で、カーデザイナーは、どんなコンセプトを提案すればよいのでしょうか?これは、面白いトピックですが、正直、私も答えを持っていませんし、誰も答えがあるわけではないのです。しかしながら、中国の自動車販売から、色々なシナリオを想定することはできます。仮に、中国での販売が落ち込むとしても、どこか他の地域や市場で、新しいクルマのニーズが浮き上がってきて、落ち込みを補完することがあるかもしれません。その新しいマーケットでのコンセプトを考え提案するのも、カーデザイナーの仕事ではないでしょうか?
(追記)雑誌、Car Stylingの昨年のNo,5は、中国のクルマの特集記事が載っていて、大変面白いものです。興味がある方には、是非、一読をお奨めします。